資料

義務教育から権利教育へ⑤まとめ

1.権利が先か、義務が先か
 すべての人が教育を受ける権利を有する、これが何よりも基本になります。国際法でも日本国憲法でも保障された権利です。そして、本来、それを保障するための(保護者の)義務であったはずです。とりわけ、戦後の混乱期においては、強制的な就学義務が一定の役割を果たしました。
 ところが、いつしか権利と義務が逆転し、「義務教育=学校へ行かなければならない」と解釈され、権利意識が希薄なまま、他に選択肢が認められない状況が、様々な問題の背景になっています。

 学びや育ちのプロセスは本来一人ひとり違って当たり前だと思います。既存の学校が合っている子もいれば、そうでない子もいるはず。後者の場合、「不登校」のレッテルを貼られるだけで、その子の学ぶ権利は考慮されることがないのがほとんどです。

2.多様な教育の確保と二重学籍の問題
 国際法では、教育を受ける権利に「学校を選ぶ権利」と「学校を作る権利」も含まれています。日本ではそのいずれも法的に保障されているとはいえません。1980年代以降、不登校問題の広がりを背景に、ホームスクーリングやフリースクールの設立等の動きが出てきました。しかし、法制度上、現在もそれぞれの学区の公立校に学籍を置かなければならず、当事者の負担となっています。

3.子どもの人権と学校を選ぶ・学校をつくる権利
 その子にあった教育を受ける権利を保障する、という憲法の精神に立ち返ること、何より、子ども達が「安心」「安全」「自由」に過ごす権利(人権)を保障することが重要だと思われます。そして、日本においても、そのための教育権(学校を選ぶ権利・学校をつくる権利)が法的に認められることが必要です。

 デモクラティック・スクール翼の設立は、そのための運動の一つとも位置付けられます。

【参考文献:義務教育から権利教育へ①~⑤共通】 

『アンスクーリングガイドブック』ZERO-net 2004年
『日本で、サドベリー~教育もステキに選びたい』きむらゆき 2010年

義務教育から権利教育へ④国内法(つづき)

最後に、学校教育法の就学義務規定に関する条項を見てゆきたいと思います。

学校教育法(1947年・昭和22年、1999年・平成11年改正)

【第2章 義務教育】
第16条  保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
第17条  
1. 保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
2. 保護者は、子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
3. 前2項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。

なお、参考までに、この規定には罰則も付されています。ただし、学校へ行かない選択をする子ども達が増えている中で、実際に罰金が科されることはほとんどないようです。

【第13章 罰則】
第144条  第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け、なお履行しない者は、10万円以下の罰金に処する。

ポイント

○この就学規定により、ホームスクーリングなど学校へ行かない選択をした子ども達は「不登校」の扱いを受けます。また、デモクラティック・スクールなどのオルタナティブな非正規学校へ通う子ども達も、従来の学区の小中学校に学籍を置かなければならない状況です(二重学籍の問題)。

○また、「教育の機会の保障」という日本国憲法や教育基本法に定められた義務教育の精神と、「義務教育=学校教育」という学校基本法の条文との間には、ギャップがあるように感じます。

義務教育から権利教育へ③国内法

■国内法

日本の最高法規である日本国憲法の教育に関する条文と教育に関する上位法である教育基本法の条文を見てみたいと思います。

日本国憲法(1946年・昭和21年)第3章国民の権利および義務
第13条【個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重】(本文略)
第26条【教育を受ける権利、教育を受けさせる義務、義務教育の無償】
1. すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2. すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育はこれを無償とする。

教育基本法(2006年・平成18年)
第4条【教育の機会均等】
1. 全て国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、心情、性別、社会的身分、経済的地位または門地によって、教育上差別されない。
(以下略)
第5条【義務教育】
1. 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2. 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家および社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3. 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4. 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
第10条【家庭教育】
1. 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2. 国及び地方公共団体は、課程教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

ポイント

○上位法である憲法及び教育基本法には、子どもに合った教育を受ける権利があることが定められていますが、“子どもを学校へ通わせなければならない”“普通教育=学校教育”という規定はありません。(学校教育法ではじめてその規定がでてきます。これについては④で触れます)
○教育基本法では保護者に子どもの教育の第一義的責任があることを明記しています。

義務教育から権利教育へ②国際法

■国際法

国際法は国内において法的拘束力を持つものではありません。しかし、国内法の制定に影響を及ぼすものとして、教育権に関わるものを取り上げてみたいと思います。

世界人権宣言(1948年・国連採択)
26条:すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。(以下略)
3.親は、子どもに与える教育の種類を選択する優先的権利を有している。

国際人権A規約(1979年・日本批准)
13条:親に教育の選択権があることと、学校設立の自由を保障している。(日本は批准時に、中等教育の無償化と高等教育の無償化を留保)

児童の権利に関する条約(1990年・日本批准)
第3条:最善の利益の確保 子どもに関するすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。

(参考)人権委員会における国連人権高等弁務官「教育への権利に関する声明」(1990年)
―――無償で義務教育が受けられる権利があっても、それを辞退する自由が保証されていなければ、“教育への権利”は否定されている。

ポイント

○国際法において、教育への権利の保障と、子どもの最善の利益を優先させることが規定されています。
○また、親に教育の選択権があることが明記され、学校を選ぶ自由と学校を作る自由が保障されています。

義務教育から権利教育へ①はじめに

デモクラティック・スクールの話をすると、必ずといっていいほど「義務教育はどうなるのですか?」と質問を受けます。既存の教育制度によらないオルタナティブ・スクールやホームスクーリングと義務教育制度の関係について、何回かに分けて整理してみたいと思います。

重要なポイントは、「義務」が先にあるのではなく、教育を受ける「権利」が先にある、ということです。義務教育というと、ほとんどの人が「小中学校へは行かなければならない」と考えているようです。ところが、国際法や日本国憲法・教育基本法でも第一に保障されているのは、「教育を受ける権利」です。全ての子ども達、全ての人に、この権利があります。

この権利を保障するために設けられたのが「義務教育制度」であったと理解しています。とりわけ戦後の混乱期には、この制度が大きな役割を果たしたことは間違いないと思います。

ところが、いつしか権利の部分が置き去りにされたまま、法制度的にも私たちの意識の上でも、義務だけが重荷のように存在しているように思います。

そして、現実的な対応としては、オルタナティブ・スクールはほとんどが非正規学校として法的にはグレーゾーンに存在し、そこへ通う子ども達は、公立校にも籍だけ置くという二重学籍を持つことになります。

法律は、絶対のものとして存在するものではなく、時代やニーズの移り変わりとともにまた変化してゆく必要があると思います。そのような立場に立ち、教育への権利の確保という観点から、このテーマについて整理してみたいと思います。